ジャズボーカル 松田オリビア圭子

ジャズボーカル 松田オリビア圭子のブログです。主にスケジュールのご案内を掲載します。

歌のディテール、UIのディテール

ひとの歌を聴いていて、はっとすることがある。
ジャズでは同じスタンダード曲を誰もが録音するので、聞きなれたフレーズ、歌詞をいろいろな方法で歌手が音声にしたものを聞ける。だから、同じ楽譜からどんなにバラエティ豊かなものが生まれるかよくわかる。

私が主に、かってに聞き取ったと感じてしまうのはこんな要素だ。

  • 心を開いている状態か。
  • 語りかける相手に対してどういうスタンスか。懇願か説教か会話か問わず語りか。
  • 自分自身に対してどういうスタンスか。厳しく対峙するか、許しているのか。
  • 自信に溢れているか。誇示するのか、そっと開示するのか。

このごろ、おっ?と思う声は女性に多い。厳しく自分に対峙しながら自信と誇りを持ち、相手と水平の立場で穏やかに心を開き、でも自己と他者の境界線を確実に持つ、そういうスタンスを示すように私に聞こえる声が商用の音源から聞こえるようになってきている。
やられた、と思うと同時に勇気付けられる。その発声と発音をトレースしてみると、そのスタンスが体に染みるように入ってきて自分の状態を変えるのに成功することがある。
昔でいうとアニタ・オデイがそうだった。このごろでいうとcharaがそうだしUAもそうだ、アン・サリーもそうだ。
たとえばジャズの有名な歌い手でも必ずしもそういう要素があるとは感じない。サラボーンはストイック、エラは陽気な商人タイプ、ブロッサムディアリーは男性の方針を使っているし、ジョニミッチェルは壁があるの前提だし、ホリーコールやジュリーロンドンは軽く閉じている…あっでもジュリーロンドンは悪くないかもしれない。近々聞き返そう。

こんな解釈を呼び起こしてくれる要素は、歌い方のディテールだ。

  • メロディーやリズムの取り方
  • 歌い始めのアタックや語尾の息の消し方のスピード
  • 音符ひとつのキープのしかた
  • 母音・子音それぞれをどう表現しているか。

とかとか。私はaが深い人が好きだ…などと細かいことだけ言ってもしょうがないんだけど。

まあそんなふうにディテールが集まってスタンスを示す。
そして聞く人にそのスタンスの魅力を伝え、影響を与えていく。だからたぶん、聞き続けているとアホになる歌とか、感性鋭くなる歌とか誇り高くなる歌とか、ある。

UIもそのような要素がある。UIのディテールはどんなものだろう。まずスタンス系からいけば

  • ユーザに対してどういうスタンスか。使っていただくのか、使いたきゃご勝手になのか。
  • 自分自身に対してどういうスタンスか。厳しく品質レベルを追求するか、ゆるくていいのか。
  • ユーザの知性度の幅をどれほどと想定し、どれほどユーザを尊重するか。

そしてディテールはこんなふうになるのだろうか。

  • レイアウトに配慮があるか
  • 全体の配色バランス、部品の配色
  • UIの操作時のレスポンスは快適か、シンプルか
  • メニューの分岐は説得力があるか
  • 操作の流れが自然か
  • ヘルプ、ドキュメントの呼び出し方と内容

スタンスとディテールをないがしろにして仕様を考えると、使い続けるとアホになるようなものを作ってしまいそうだ。というか作っていきながら自分もそのときはそうなってるんじゃないだろうか。実際、アプリを使っていて、ありえないメニュー構成や、あるべき機能を平気で欠落させる仕様にマウスを投げたくなるようなことは、わりとある。代替手段がない場合には平常心に立ち返って用途を完了させたらあとは忘れることにするが、アホな世界観につきあわされた屈辱感を払拭するのに、最低でも席を立ってコーヒーを入れるくらいの手間はいる。

作りながら、使いながら、賢く誇り高くなって、さらにいい仕事したくなるような製品を作らねば。せっかくなにかを作るのなら、ねえ。

書いたとき聞いてた音楽:Luiza / UA×菊地成孔